実践!生徒への気づきと評価

非認知能力を育む自己調整学習の評価と指導:目標設定と振り返りの実践

Tags: 自己調整学習, 非認知能力, 評価, 目標設定, 振り返り

導入:変化する教育現場における非認知能力の重要性

現代社会においては、知識の習得に加え、自ら課題を見つけ、主体的に解決していく能力が強く求められています。この能力を支える基盤として、「非認知能力」への注目が高まっています。非認知能力とは、目標に向かって粘り強く取り組む力、感情をコントロールする力、他者と協働する力など、学業成績では測りにくい内面的な特性やスキルを指します。これらの能力は、子どもたちが生涯にわたって学び続け、社会で活躍するための重要な要素となります。

本稿では、非認知能力の中でも特に学習に深く関わる「自己調整学習」に焦点を当て、その具体的な指導と評価のあり方について考察いたします。自己調整学習とは、学習者が自らの学習プロセスを計画し、実行し、振り返り、次へと活かす一連の活動を指します。この自己調整学習のサイクルを意識的に指導し、評価することで、子どもたちの主体的な学びと非認知能力の育成を促すことが可能となります。

自己調整学習の概念とサイクル

自己調整学習は、主に以下の三つの段階から構成されるサイクルとして理解されます。

  1. 目標設定・計画段階(Feeds-up): 学習課題を理解し、具体的な目標を設定し、達成に向けた計画を立てる段階です。
  2. 実行・モニタリング段階(Feed-back): 計画に基づき学習を実行し、その進捗や効果を自己モニタリングする段階です。必要に応じて戦略を修正します。
  3. 評価・振り返り段階(Feed-forward): 学習の結果やプロセスを自己評価し、目標達成度や効果的な戦略を特定し、次の学習へ活かすための反省や改善点を導き出す段階です。

このサイクルを繰り返し経験することで、学習者は自身の学習方法を最適化し、より効果的な学習者へと成長していきます。

小学校における自己調整学習の実践事例:目標設定と振り返りを中心に

小学校高学年の理科の単元「ものの溶け方」における実践事例をご紹介します。この単元では、食塩やミョウバンが水に溶ける様子を観察し、その規則性を見出すことを目標とします。

事例1:目標設定の具体化を促す指導

単元開始時、児童に「今回の単元でどんなことを学びたいですか」と問いかけ、各自で学習目標を設定させます。多くの場合、「よく分かるようになりたい」といった抽象的な目標が挙げられます。そこで、以下のような具体的な問いかけを通じて、目標の具体化を促します。

例えば、「食塩とミョウバンの溶け方の違いを、言葉で説明できるようになりたい」や、「実験の結果から、温度と溶ける量の関係をグラフに表せるようになりたい」といった具体的な目標へと落とし込ませます。さらに、単元全体の目標と、毎時間の目標(ミニゴール)を設定し、それらを学習ノートに明記させます。

事例2:振り返りを通じた学習の深化と次への接続

毎時間の授業の終わりに、設定したミニゴールに対する自己評価と振り返りの時間を設けます。単に「できた/できなかった」で終わらせるのではなく、以下の問いかけを提示します。

児童はこれらの問いに沿ってノートに記述し、必要に応じてペアやグループで共有させます。教師は、児童の記述内容を定期的に確認し、個別指導の際に「どのような工夫が今日の成果に繋がったと考えますか」といった、思考を深めるフィードバックを行います。これにより、児童は自身の学習プロセスを客観的に捉え、効果的な学習戦略を認識する機会を得ます。

指導・評価のポイント

目標設定における指導のポイント

振り返りにおける指導のポイント

自己調整学習の評価の視点

非認知能力としての自己調整学習を評価する際には、単に学習結果だけでなく、プロセスに焦点を当てることが重要です。

これらの視点に基づき、ルーブリックを作成し、児童と共有することで、評価の透明性を高め、児童自身が自己評価を行う際の指針とすることができます。

理論的背景:自己効力感とメタ認知の育成

本実践の背後には、アルバート・バンデューラの社会的認知理論があります。バンデューラは、人が特定の行動を成功させることができるという信念、すなわち自己効力感が、学習行動や目標達成に大きな影響を与えると提唱しました。自己調整学習を通じて、児童が自ら目標を設定し、それを達成する経験を積むことで、自己効力感は高まります。

また、自身の認知プロセスを客観的に認識し、制御する能力であるメタ認知の育成も重要な要素です。振り返り活動は、児童が自身の思考や学習方法について意識的に考察する機会を提供し、メタ認知能力を鍛えます。これにより、より効果的な学習戦略を自ら編み出す力が育まれます。

実践への応用と発展の可能性

本実践は、特定の教科や学年に限定されるものではありません。例えば、総合的な学習の時間における探究活動、体育や図画工作における技能習得、道徳科における自己の価値観の形成など、多岐にわたる学習活動に応用可能です。

さらに、学習ポートフォリオと組み合わせることで、児童の学習の軌跡と自己調整のプロセスを長期的に記録し、評価することができます。ポートフォリオには、目標設定シート、毎時間の振り返りノート、制作物、評価ルーブリックなどを集積し、児童自身が自身の成長を実感できる材料とします。

教員研修においては、この自己調整学習の指導・評価の視点を共有し、各教員が自身の担当教科や学年に合わせて具体的な実践事例を考案・共有するワークショップ形式で進めることが効果的です。若手教員にとっては、従来の知識伝達型ではない、児童の主体性を引き出す指導法のヒントとなり、指導力向上に繋がるものと考えられます。

まとめ

自己調整学習の指導と評価は、児童が自らの学びをデザインし、目標に向かって主体的に取り組む非認知能力を育む上で極めて有効なアプローチです。具体的な目標設定支援と、深い省察を促す振り返りの機会を提供することで、児童は自身の学習プロセスを客観的に捉え、効果的な学習戦略を身につけていきます。

この実践は、単なる学力向上に留まらず、子どもたちが変化の激しい未来社会において、自立した学習者として生き抜くための基盤を培うことに貢献します。教育現場において、非認知能力の育成という視点を取り入れ、子どもたちの可能性を最大限に引き出すための指導と評価を、今後も探求していくことが重要であると考えます。